崖の上のポニョ

人魚から人間になった燈台守の話

 理砂「今、この家は嵐の中の燈台なの。
    真っ暗な中にいる人は、
    みんなこの光に励まされているわ。」

ポニョが起こした嵐の中、家にたどり着いた理砂が緊急用電燈をポニョに託します。ポニョはそれを頭にのせる。まるで燈台のようです。

連れ戻されたポニョがハムを食べたとフジモトに告げます。「そんなおそろしいものを食べて」とフジモトが差し出すのは“やまなし”でしょうか。食べ物を食べ物で浄化しようとしている行為のようです。「銀河鉄道の夜」の鳥と苹果が想起されます。苹果は殺生の罪に染まることのない清浄な命、鳥は殺生の罪に染まる不浄な命でした。

ポニョのハムは、ちょうどの鳥捕りの鳥に相当するようです。宮崎監督は「千と千尋の神隠し」で、豚=欲と定義しました。さらに、豚はなんでも食べます。罪に染まったものもそうでないものも。したがって、「崖の上のポニョ」のハムのメタファは「罪+欲」ということになります。

さらに、フジモトがハムを浄化するために差し出したのが“やまなし”ならば、このことは、宮崎監督が“やまなし”と苹果を同一視していることをしめしています。

おもちゃのポンポン船で理砂のもとへと向かうポニョと宗介が出会った赤ん坊連れの夫婦。
ポニョが赤ん坊に「おっぱい」と差し出すサンドイッチはハム抜きです。ハムはポニョが全部食べた、ということはポニョがサンドイッチを浄化したという意味です。浄化済みの食物とは、すなわち「銀河鉄道の夜」の苹果のことです。

銀河鉄道でジョバンニ達に苹果を差し出すのは燈台守の役割でした。したがって、ポニョ=燈台守のメタファということになります。ポニョの色に着目してください。ポニョの赤はハートマークの赤色です。「銀河鉄道の夜」においてハートは苹果でした。熟した苹果の色がポニョの赤なのです。

銀河鉄道の燈台守は、また、タイタニックに乗り合わせたと思われる青年達をなぐさめる役割も果たしていました。ポニョが泣き始めた赤ん坊をあやす、べつな言い方が可能ならば、なぐさめたと言えなくもありません。

宗介が父と交信する信号燈、フジモトがグランマンマーレとの交信につかう信号燈、緊急用電燈、燈台、ポニョ=燈台守、と幾重にも重ねられた燈(あかり)のメタファ。

 宗介「ぼくお魚のポニョも半魚人のポニョも人間のポニョもみんな好きだよ」
 ママ「人間になるには魔法をすてなければなりませんよ。できる?」
 ポニョ「うん」
 ママ「みなさん、世界のほころびはとじられました」

ずいぶんとあっさりした決着ですが、まがりなりにもポニョと宗介は世界を破滅から救ったようです。ポニョはこの先、崖の上の家に住むことになります。すなわち、タイトルの「崖の上のポニョ」とは「崖の上の燈台守」という意味になります。燈台はたいていの場合、崖の上にあります。

・・・つづく

 

 

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