ハウルの動く城

南十字が心臓を取り戻すという話。史上もっともロマンチックな宮崎駿作品

 荒地の魔女のメッセージ
 「汝、流れ星を捕らえし者、心なき男、お前の心臓は私のものだ」

心臓を失ったことで、魔力を得、魔力を使うことで、だんだんと人間を失ってゆくハウルハウルは人面鳥の姿で空中を飛び回る。やがて、魔王になるのだといいます。

美しくなければ生きている意味がないと主張するハウル。城の洞窟の中、人面鳥の姿のハウル。ソフィに見るなといいます。醜悪と自認しているからでしょう。

 ソフィ「まあ、きれい」
 マルクル「星の海っていうんだよ」

星の海を渡ってゆく乗り物とは、ごぞんじ銀河鉄道。崖の扉に開いた濃密な暗闇とは、おなじく「銀河鉄道の夜」の石炭袋。ソフィは、暗闇を進み、ハウルとカルシファの出会いの秘密を知ることとなります。

隠されてはいますが、賢治用語で心臓が関係するのは南十字のみです。カブの存在は、ハウルに南十字のメタファを与えるためと思われます。ハウルが南十字なら対となる北十字となる存在が必要になります。そのために、宮崎監督はカブに体が十になる呪いを掛けたのだと思われます。

 マルクル「ソフィってほんとに魔女じゃないの?」
 ソフィ「そうさ、この国いちばんのきれい好きの魔女さ」

おなじく対になっているのが、荒地の魔女とソフィの関係です。荒地の魔女が魔法を掛けるだけの魔女ならば、ソフィは魔法を解くだけの魔女。掃除の魔女。浄化の魔女。それが、カブが無意識にソフィに惹かれた理由でもあるのです。そして、ハウルがずっとソフィを待ち続けた理由でもあるのです。

・ ソフィはハウルの城にすんなり入ることができた。
・ ヒンをダッコで晦渋
・ カブにキスして人間に戻す。
ハウルに心臓を戻す。
・ 同時に、カルシファーを流れ星に戻す
荒地の魔女に、おばあちゃん、ありがとうとキス。げ、魔力が戻ったのでは?

ソフィの老婆の姿は荒地の魔女の呪いです。しかし、呪いを解かないのはソフィ自身の意思です。自分は美人ではないという卑下から、すなわち、“変装”です。マルクルが魔法で老人の姿になるのと同じ理由なのです。

しかし、意識を向けていないと呪いが解けてしまうようになってきています。呪いが解けるのは、就寝時とソフィが何かに心を奪われた時のようです。

ラストでのソフィはずっと若いままの姿です。呪いが解けたわけでも、呪いを解いてしまったわけではありません。髪の色が元に戻っていないことが、呪いが解けていないことを示しています。呪いが解けたわけでもないのに若い姿でいる。その理由はたったひとつ、ソフィがハウルに心を奪われてしまったからです。

 ハウル「ようやく守らなければならないものができた。君だ」

そしてエンディング。飛翔する城、ハウルの隣に寄りそうソフィの姿は若い。ソフィは、あれからずっとハウルに心を奪われ続けたままでいます。

・・・つづく

 

 

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