アニメ 輪るピングドラム 第10話

今回、いちばん違和感を覚えたのが、陽毬の編み物セットでした。

陽毬「冠ちゃんは一睡もしないで晶ちゃんに付きっきりで」というセリフは、同じように陽毬も一睡もしないで冠葉と一緒に付き添っていたという証明です。しかし、なぜ、陽毬は、編み物セットを持ってこようと思ったのでしょうか。冠葉がうろたえるくらいの状況にもかかわらず、晶馬が軽傷であることを知っていた、あるいは、晶馬が身体的にそれほど深く傷つかないと知っていたからでしょうか?冠葉がトラックを追いかけたときも大した怪我は負いませんでした。冠葉と晶馬には、なんからの強化・改造がなされている可能性があります。

ただし、クリ姫からの直接の打撃の場合は別のようです。第8話で、陽毬が巨大な練習用グラブで冠葉と晶馬に当てた打撃の甚大さには驚きました。今となっては、あれは、進展がないことにイラついたクリ姫が陽毬のふりをして冠葉と晶馬に与えた懲罰と考えられます。


真砂子登場。晶馬は2日続けて薬入りデザート。晶馬、再び人事不省。真沙子が晶馬を台車に押しこめて運ぶ。処置台にも乗せる。真沙子は、ウエイトリフター並の怪力の持ち主のようです。やっぱり変です。真沙子も強化・改造されているか、あるいは兵士としての訓練を施されているのでしょうか。そもそも、真沙子は冠葉をトレースしているはず。真沙子が病院に現れたのは、いったい何時のことなのでしょうか。


真沙子「アリアドネの糸を手繰って」のセリフ。“アリアドネの糸”を監視・ストーカー行為と考えると、作品には2パターン現れます。さらに、今回、真沙子と時籠ゆりが同じサイドにいるらしいことが浮かび上がってきました。

(1) 真沙子→冠葉←1号←クリ姫
(2) 時籠ゆり→多蕗{→鳥}←苹果←晶馬←2号←クリ姫

第2話で、苹果監視するための監視装置(パソコン、カメラ、盗聴器、生徒名簿)を調達してきた冠葉。苹果は盗聴器。時籠ゆりもおそらくカメラと盗聴器。真沙子も病室に現れたタイミングからすると、苹果が日記の半分を所持している事実を晶馬と苹果の会話から確認した上のことだと推測できるため、最低限、盗聴していたと考えるのが妥当です。また、1号2号はクリ姫の監視装置と考えられるから、この中で、監視装置を使っていないのは晶馬だけです。多蕗は、双眼鏡という監視装置を使って鳥(?)の観察をしています。うーむ、こうなると多蕗はただの高校教師ではないかもしれないですね。


冠葉が監視装置を調達してきたことと、解錠セットを所有していたことから推測すると、冠葉の仕事というのは、なんらかの盗聴・盗視行為なのではないでしょうか。前々回、地下鉄の中で封筒を受け取る冠葉の横で、1号がエクササイズをしていたのは、“仕事をした・活躍した”という意思表示のように感じます。逆にいえば、1号がいれば、盗聴・盗視は非常に容易です。誰かが機密情報を扱っているすぐ横で1号がのぞいていても気取られるおそれはありません。盗聴・盗視であれだけの大金を即座に稼ぐことができるのは、政治・企業レベルの機密情報がらみ。国会議事堂の背景は、冠葉の仕事の対象を暗示した演出だったのではないかと考えます。


さて、冠葉、C棟屋上へ、翻るシーツの波、真砂子のパチンコ攻撃。オルゴール。新世界のメロディ。「銀河鉄道の夜」の新世界交響曲は、名もない停車駅から発車してコロラド高原にかかったあたりです。「銀河鉄道の夜」の新世界交響曲には、銀河鉄道の乗客たちに、元いた世界のことを茫洋と忘れさせる効果があるように描かれています。しかし、ピンドラでは逆です。真沙子の声で「どうだ、思い出したか」です。“新世界”はキーワードでしょうか。ピンドラでの新世界という言葉には、テロの匂いを感じます。まさか・・・、スカンク・テロ(笑)

真沙子のイリュージョン。冠葉が女の子からもらってドン引きした記憶。手のかかった弁当、巨大ケーキ、手編みの名前入りセーター。暗視鏡越しにもかかわらず、ピジョンブラッドのセータが似合う、わたくしの狙いはと、いって真沙子が冠葉にキス。照明点灯。冠葉はセータを着たまま。すでに、真沙子も忽然と姿を消している。イリュージョンと現実の境目はどこなのでしょう。元カノたちの記憶を消去したことと合わせて、真沙子には記憶を操る能力があるのでは、と疑われます。


冠葉のセータの胸にハートマーク。苹果→洋りんご→ハート→心臓は二枚貝説の苹果の解釈と重なります。もっとも、宮崎駿監督は「ハウルの動く城」で、ハウル=南十字が心臓を取り戻す話を描いていました。ピンドラで冠葉の胸に大きなハートをつけた意味はどのへんにあるのでしょうか。「銀河鉄道の夜」のカンパネルラは、鳥取りがくれたお菓子の鳥(地上に転生するための罪に汚れた命)は食べたけれど、苹果(天上に生まれるための清浄な命)は食べていません。「銀河鉄道の夜」を重ねるとき、冠葉(カンパネルラ)に胸のハートは不似合いです。

地下鉄。エスメラルダを抱く真沙子「予定どおり日記は手に入れた」。目的は日記を入手すること。しかし、苹果が落とした日記を回収したシルエットは、真沙子のものではないようです。おそらくは時籠ゆり。大阪行は1~2日鯖をよんでいた可能性ありです。しかし、今回で明らかになったことは、最低限、真沙子と時籠ゆりは同じ陣営におりお互いに連絡を取り合える相手ということです。

ラスト、ペンギン帽を被ったマリオの登場。陽毬の運命の相手というよりは、陽毬の弟という印象です。また、ペンギンを連れていないのが不思議です。ペンギンといえば、エスメラルダという名前も変です。エスメラルダの体の色はエメラルド・グリーンではなく黒。あるいは、真沙子と行動を同じくしているうちに黒く変色していったのかもしれません。黒は罪の色かもしれません。宮沢賢治で鳥が色に染まってゆく話は「二十六夜」とぼぼ同時期の「林の底」という作品です。

 

 

つづく >輪るピングドラム 第11話