アニメ 輪るピングドラム 第13話

フレームアップ

家宅捜索はフレームアップ臭いですね。でっち上げの証拠を置くために兄弟妹を家から追い払った、それくらいしか合理的な理由は考えられません。冠葉への二度の金の無心の件といい、池辺のおじさんというのが、どうもKIGAグループ寄りに繋がりがありそうです。

ただ、このフレームアップは同時に女神の罰の一環でもあるようです。下駄箱の上にあった3個のリンゴ。家宅捜索中にもちゃんと3個ありました。ホテルのベッドで眠る陽毬が手にするリンゴ。4個目です。あのリンゴは“陽毬の命”なのではないでしょうか。ほんとうなら1個で1月もつはずなのに、一晩眠るたびに1個づつ。ぽろりぽろりと陽毬の命は、あの時点で、こぼれていってしまっていたのではないでしょうか。ただし、陽毬の病気は、空の孔分室にゆくためのタイマーだった可能性があります。

  ジョバンニは僕はもうあゝ云う苹果を百でももってゐるとおもひました。
  (「銀河鉄道の夜 第二次稿」宮沢賢治全集7)


冠葉の目の前でリンゴを一瞬にアンプル変える眞悧。陽毬の足元にもリンゴが1個置かれていました。冠葉に決断を迫る眞悧。しかし、3号はすでに透き通ってはいますが復活しています。事件がでっち上げ臭いのと同じくらい、注射液も偽薬臭いのです。

また、リンゴをアンプルに変えられるなら、ピングドラムもリンゴの形をしているのかもしれません。そして、手に入れたピングドラムを陽毬に渡すと“牛乳瓶”に変わる。はて、マリオは牛乳は大丈夫なのでしょうか。


たった一人の恋人

空の孔分室を駆けまわる桃果らしき影。ペンギン帽が落ちる時、ズックを脱いだソックス姿、濃い桃色の髪。帽子を被っていた人物も桃果らしき姿でした。
ただ、眞悧が誰かに話しかけていた、その時制は、陽毬を蘇生させた後です。桃果らしき影は16年前の事。16年前の影と現在が重なっています。一瞬、帽子を被っていた人物が桃果を想起させたとしても、あれは現在の事象とは限りません。

  眞悧「世界でたった一人の僕と同じ風景を見ることができるたった一人のぼくの恋人」

むしろ、眞悧が話しかけていた相手は、クリ姫とするのが妥当でしょう。眞悧は16年前に桃果を失ったからこそ、今は、陽毬一人。クリ姫と陽毬は同一人格の深層と表層。しかし、深層たるクリ姫は、自分が陽毬と同一人格・同一人物であることを気づいていない。だからこそ、眞悧が陽毬の命を救ったことを不思議に思っているのでしょう。眞悧は、クリ姫を失いたくないからこそ、必然的に陽毬を救わなければならなかったのに、です。

ピングドラムをいっしょに探そうと、クリ姫に言うのは、眞悧自身が運命などないのだと思いたいから。運命さえなければ、クリ姫を“運命の花嫁”から解放できるからだと思います。では、なぜ、眞悧はクリ姫を自分の恋人にしたいのか。



月の女神

  夏芽「明るい場所と暗い場所は共存しなくてはならないの
     すべてを明るい光で照らしてしまうと
     必ずその反動で暗い場所が明るい場所を攻撃するのよ」

晶馬が話す女神の話。リンゴ1個が持続させる命の時間は1ヶ月。眞悧が月の女神のように振舞っています。また、眞悧は従者に闇ウサギを従えています。眞悧は男性に見えます。そして、16年前に現れたのが桃果。今、現れたのが陽毬。女性です。本来なら女神は女性です。桃果と陽毬は月の女神候補なのではないのでしょうか

ならば、眞悧は神ではないのでしょうか。いいえ、眞悧は神だと思われます。夏芽の言う、明るい場所(昼)を統べる神。太陽の神です。そして、桃果と陽毬は暗い場所(夜)を統べる月の女神(候補)。

月にはウサギが棲み、太陽にはカラスが棲むという説話は、古代中国起源だそうです。高句麗の旗印の三足烏もこの太陽に棲むというカラスの説話が起源のようです。眞悧が連れている闇ウサギが黒いのは、ずばり“その正体がカラスだから”だと思われます。

であれば、1号2号3号の“青”は月の光の青、ムーンライト・ブルーといったところでしょうか。そして、陽毬と同じような存在の夏芽マリオ。マリオは男です。マリオは眞悧の太陽の神の交代要員なのではないでしょうか。太陽の神が従えるのはカラスです。エスメラルダが黒いのは“その正体がカラスだから”と解釈できます。

太陽の神の従者はカラス。月の女神の従者はウサギ。ただし、両者がペンギンの姿をしているのは、いずれも、いまだ候補であって正式な神・女神ではないからだと思われます。



桃栗3年柿8年

太陽の神の候補者と月の神の候補者は同時にこの世に生を受けると仮定すると眞悧にも相手がいたはずです。しかし、眞悧の相手は何らかの理由で失われた。だから、眞悧は長い時間一人きり。16年前、桃果が現れた。けれども、桃果は、桃果の相手は眞悧ではないことを知っていた。だから、眞悧は拒まれる。それからまた16年後、陽毬が現れる。やはり陽毬は眞悧が相手ではないことを深層で知っていたため拒絶する。しかし、今回の眞悧には希望がある。ピングドラム。運命を打ち破るとクリ姫(陽毬)が主張するアイテム。

  「桃栗3年柿8年、神の候補者16年」

たぶん、今週の標語のフルバージョンです。では、桃果の時の桃果と同時に生を受けた太陽の神候補はどうなったのでしょうか。眞悧が処理してしまったのかもしれません。

つまり、月の女神としての能力を使って、寿命を1/29に縮める。候補が命を使い切ったあとは1ヶ月づつの延命する。今回、眞悧がマリオを生かしているのはこのやり方だと思います。それは、真沙子をピングドラム探索に使役するという明確な目的があるから。さらには、マリオの命の代償として金品やその他も手にしているようです。眞悧の狙いには夏芽グループを丸ごと手に入れることも含まれるのかもしれません。たとえば、16年前の地下鉄事件は、眞悧がピングフォースを使嗾した結果だったのかもしれません。



桃果と運命日記

さて、かつて桃果は月の女神たるを拒絶して別の道を選択しました。桃果はその後どうなったのでしょうか。

以前、桃果は過去世に転生して、時籠ゆりとして生まれ、桃果・多蕗と同じ時間を生きてきたと考えました。そして、運命日記は中学生のゆりが記したものだと考えました。今もそのように考えています。

桃果の葬式のとき運命日記は苹果の手の中にありました。しかし、運命日記の日記帳自体は市販品だったはずです。時籠ゆりは、桃果の魂を持っていますから、同じ日記帳を買いペンネームを“おぎのめももか”として運命日記を記していっていたとしても、さほど不自然とは思われません。そして、歩くそばから、花がおのが身を散らしてしまうのは、単に時籠ゆりの美貌のためではなく、ゆりが女神の位を備えているから。

そして、苹果には優しいし、ゆりの前でモンブランを食べる多蕗は子供のように楽しそうです。16年前、桃果といた頃の多蕗がそうだったのかもしれません。



運命の花婿

運命の花婿とペアとなる太陽の神候補は別々なのかもしれません。桃果の運命の花婿=ペアとなる太陽の神候補だったしたら、とっくに眞悧が処分していたはずですから。であれば、陽毬の運命の花婿は、マリオではない可能性が大です。

 

つづく >輪るピングドラム 第14話