アニメ 輪るピングドラム 第1話、第2話

まずは、つっこみから。

苹果と林檎とは形状が違います。苹果は肩の張ったいわゆる洋りんごのことで、アニメにでてくるまん丸なリンゴは林檎です。「銀河鉄道の夜」のリンゴはもっぱら苹果の方で、アニメに出てくる用字とアニメのリンゴの形状が一致していません。賢治フリークなら、原子朗氏「宮沢賢治語彙辞典」でちょっと調べればわかることです。このアニメは、だれにでも解るくらいあからさまに「銀河鉄道の夜」を引用していますが、実は、その引用自体には、さほどの厳密な意味はないと捉えていいように思います。


さて、小学生が語る「銀河鉄道の夜」のリンゴの解釈ですが。“リンゴそれ自体が小宇宙で、愛による死を自ら選択した者への褒美でもある”そうです。“愛”とは定義が難しい概念です。まだ始まったばかりですので、この小学生が語った解釈自体、鵜呑みにする必要もないかもしれません。今から真に受けると疲れるだけです。捨てるかどうかは、これからの展開しだいです。


第一話。高倉冠葉(かんば)、晶馬(しょうま)、陽毬(ひまり)の兄弟妹。兄弟の名前がカンパネルラとジョバンニのもじりです。最後のシーンの冠葉の行動は、陽毬が実の妹ではないということを暗示しているかもしれません。柱の傷も兄弟妹それぞれ1筋しかないのも変です。普通は、それぞれの傷が幾筋もついているはずです。陽毬=かをるのミスリードを狙ってのことかもしれません。

冒頭、「僕は、運命って言葉が嫌いだ」という晶馬。ペンギンハットの人格(プリンセス・オブ・ザ・クリスタル)も変です。本当にペンギンハットが陽毬を選んだのでしょうか。ペンギンハットが本体だとしたら、両親不在の家庭で、不治の病の妹の命を盾に兄弟を使役できるという、クリスタルにとってかなり都合の良い事情を、“偶然”、選択することができたことになります。むしろ、陽毬は、かぐや姫的存在であって、ある日、突然、兄弟たちの妹になり、不治の病というのは、いってみればタイマーのようなもので、いったん死ぬことがクリスタルの人格を覚醒させるための手順であった可能性があると。そう考えたほうが面白い。

ならば、ペンギンとは何か。「銀河鉄道の夜」にはペンギンはでてきません。むしろ、ラッコが出てくるのですが高額の値札をつけられ最初からお役御免の身の上です。また、陽毬に言わせるとラッコは冠葉で代用が効くのだといいます。では、元にもどって、なぜペンギンかというと“鳥”だから、ということなのではないでしょうか。南十字→南半球と連想してゆくなら、たとえ飛べなくともペンギンが鳥のメタファをもってこの作品に登場しても突拍子も無いほど無理ではありません。

池袋サンシャイン水族館の本物ペンギン達は南氷洋から連れてこられたはずです。ならば、第一話の数年前に、クリスタルと従者ペンギン達が本物ペンギン達とともにこっそり水族館にやってきていたとするシナリオも、やはり、絶対ありえないというほではありません。そしてクリスタルは人格を隠したまま陽毬として高倉家に引き取られ、従者ペンギンは水族館で機会を待つ。飼育員の目には彼らは見えません。そこが水族館であるから彼らは餌には十分にありつけたはずです。隠遁するには絶好の場所のはずです。

高倉家での陽毬のベッドにしても、高倉家の作りからするとずいぶんと豪華な作りでした。陽毬が高倉家に行かざるを得なかったのも餌のためではないかと思われます。陽毬にとって、従者ペンギンと同じ餌ではちょっと無理があったのでしょう。高倉の母親の味を気に入っていたみたいですから。陽毬には人間が食事といえるレベルの餌が必要だったと想像します。

水族館が兄弟妹の思い出の場所だ、というのも意味深長です。そして、水族館にいるときに陽毬のタイマーが発動。従者ペンギン達は、日頃、飼い慣らしておいた飼育員を使って、自ら氷詰めとなり高倉家にクール宅急便として送らせる。おおっ、つじつまが合っています。


第一話最後と第二話冒頭で、「私は運命を信じている」と独白する荻野目苹果。苹果のカバンにつけられたアクセサリーがヒトデとクラゲ。苹果の未来日記の表紙が竜宮城とリュウグウノツカイの絵。縁の下が海の底になったかのような描写。これは「双子の星」の竜王の引用でしょうか。あるいは、浦島太郎の説話のモチーフでしょうか。

苹果の日記も、記述量からすると、デスノートなどで代表されるような未来を言い当てる“予言”というより、聖書などで使われる“預言”という言葉の意味に近いのではないかと思われます。単純に、あの日記に書きさえすれば書いたことが実現するのならば、あれほどのページ数で記述された手順を踏む必要はなく、率直に実現したいことを書いてしまえばいいのですから。

逆に、預言としてあらかじめ書かれてあって、苹果がそれ読み、その結末が苹果にとって運命と言い切ってしまってもいいほどの望ましい未来であったのなら、一つひとつ実現していっている苹果の行動が理解できます。ならば、あの日記を書いたのは誰でしょう。陽毬の例が適用できると思います。たぶん、苹果の別人格のプリンセスがいて、苹果が寝ている間に、せっせと書き進んでいるのだろうと想像します。

それと、気になるのが、日記に書かれていたブサイクなツバメの絵です。あからさまに従者ペンギンに酷似しています。おそらく従者ツバメもいるのだろうと想像しています。たぶん、タイトルバックにでてくるあの黒い奴です。

運命の意味も違うのではないでしょうか。晶馬の言う嫌いな運命は、英語でいうとfate(悪い運命)の方。苹果の言う好きな運命はdestiny(良い運命)の方だと予想します。

このアニメは、「銀河鉄道の夜」や「双子の星」をなぞった物語だと捉えると、はぐらかされてしまうような気がしています。

 

つづく >輪るピングドラム 第3話、第4話