逆さ十字の天使

苹果とは命であると解けたものの、ずっと、鳥が何を意味しているのかわからない日々がつづきました。あれこれ思い悩んでいたわたしが、鳥も命である、という答えを見つけだすきっかけとなったのが「ローゼンメイデン」というアニメです。

あらすじ:人形師ローゼンが作った6体の人形(ドール)同士が、いずれがもっとも優れた人形かを競うアリス・ゲームなる闘争を続けている。ドールは、闘争のエネルギー源たる人間の宿主を必要し、ドールが作り出した平行世界で闘争が行われる。

  「こんな食べ物で自分の身を汚すなんてできない
  (中略)いつか体を清めた私を迎えに来てくれるの」
  (アニメ ローゼンメィデン・ドロイトメント第六話「天使」)

水銀燈という名のカウンター・ヒロインの宿主の少女が、病院食を拒否するシーンのセリフです。その少女が、取り壊し寸前の教会の中で見つけるのが水銀燈という生き人形がはいったトランク。少女がトランクを見つけたとたん、トランクのふたが開き、教会の十字架が光輝を放ち、黒い鳥羽が飛び交う。トランクの中から契約の指輪の手が差し出され、宿主の少女が指輪にキスをすると、十字架の光輝の中で、黒い羽をもった水銀燈が覚醒。復活した水銀燈ミッドナイト・ブルーの衣装の左右の裾には白い十字がひとつずつ。この作品には二十六夜の月があらわれるシーンが何度も登場します。

宿主の少女は、水銀燈を「天使さん」と呼びかけます。しかし、水銀燈は「私は天使じゃない」と答えます。その宿主の少女の枕元にリンゴとミルク。

  ・汚れた食べ物
  ・迎え
  ・トランク
  ・“燈”の文字を名前に持つカウンター・ヒロイン
  ・鳥
  ・十字架
  ・光輝を受けて復活、
  ・リンゴとミルク
  ・二十六夜の月

と、二枚貝説でのキーワードだらけです。漫画原作をあたってみましたが水銀燈という名と黒い羽以外は、原作にはないものです。したがって、それ以外の事物は、アニメ版の監督または脚本が意識的に挿入した事物です。これらは、「銀河鉄道の夜」を意識した上でのオマージュなのではないでしょうか。わたしと同じような解釈、あるいはもっと進んだ解釈をもつ人物が作ったとしか考えられません。ただし、「銀河鉄道の夜」を感じさせられるのはこのシリーズのこの回だけなのです。

苹果とは命である。鳥も命である。ただし、鳥は殺生の罪に汚れているが、苹果は汚れていない。すなわち、銀河鉄道の乗客は命を持たない者である。現世に転生するにしろ天上に解脱するにしろ新たに生まれるには新たな命を経口で摂取することが必要。そこでは鳥とは不浄な命を象徴であり、鳥を食した者は現世に転生する。苹果とは清浄な命の象徴であり、苹果を食する者は天上へと解脱できる。

水銀燈は天使ではない。では何者であるのか。この回だけの監督なり脚本の解釈だったのでしょうが、それは、十字架の光輝の中で復活する者である、という存在ということでしょうか。

・・・つづく