苹果とは

苹果とは何でしょう。賢治は林檎と苹果を区別して使っていたようですが、そのメタファにはながらく到達できませんでした。ジョバンニの切符の分析から、ジョバンニの切符=ジョバンニの命(心臓)と解するのがもっとも妥当と考えていました。そして、最終的に、苹果のもつメタファに思いいたった鍵となったのが、「心臓」という単語です。

  現在私たちが慣用的に使っている「林檎」は、もともと西洋リンゴ輸入前の
  小粒の和リンゴの総称で、西洋リンゴ(大りんご)の表記は「苹果」であった。
  (原子朗「新宮澤賢治語彙辞典」

トランプなどのハートマークは心臓を抽象化した図案であることは公知の事実です。ハートマークの形状と色を思い描くとき、賢治のいう「苹果」、すなわち、語彙辞典にある西洋リンゴの形状と色に酷似している事実に気づきます。ハートマークと苹果との酷似、賢治が「苹果」という言葉を使うとき、そのメタファは「心臓」であり、「心臓」のメタファは「命」でもある。それゆえ「命」が「苹果」のメタファである、という三段論法に考えいたります。

食物連鎖の最下層にいる無機物から有機物を作り出す生物は例外として、賢治が「ベジタリアン大祭」で指摘するように、すべての生物は他の生物の命を喰らうことで自らの生命を維持しています。

作品「なめとこ山の熊」で、賢治が「なめとこ山の熊のことならおもしろい」と書き出しますが、なにが面白いのでしょうか。人語を話す熊だからおもしろいのでしょうか。どちらかというと、おもしろいというより不気味なのではないでしょうか。

ツキノワグマは、基本的には雑食性なのですが、もっぱら草食の熊なのだそうです。言い換えるとベジタリアンの熊ということになります。ただし、熊のだいたい半分くらいの種類はベジタリアンなのだそうで、そういえば、中国にも白黒ツートーンのやつがいます。

さて、銀河鉄道の車内では、苹果は皮を剥かれて食べられていました。ならば、苹果の芯は食べられたのでしょうか。皮を剥いて食べていたくらいですから、芯も食べてはいないと推測できます。では、なめとこ山の熊の場合はどうだったでしょう。小十郎は熊にいいます。「あゝ、おれはお前の毛皮と胆(芯)のほかは何にもいらない」

・・・つづく