銀河鉄道は西進したのか

南十字の停車場の地上座標は単純計算で求めることができました。ここでは、もうすこし別な視点から飛跡を分析してみます。

イタリアの経度は東経10度近辺です。したがって、イタリアから西経150度のハワイまでは経度にして160度です。160度を時差に直すと10時間40分になります。

地上では45分経過していました。長針の45分は短針だと9時間です。これは、天上では9時間経過していたという意味ではないでしょうか。銀河鉄道の走行時間が9時間であるならば、銀河鉄道は地球の自転速度より1時間40分も速く西に飛んだことになります。時差1時間40分を経度であらわすと25度になります。

地球の自転速度以上の速さで西に飛ぶと、どういう効果があるのでしょうか。地上の観察者には、銀河鉄道はあたかもマッハの速度で西に飛び去っていくように見えます。しかし、宇宙の観察者から見ると西へと向かう経度方向の移動速度は地上から観察するよりも、はるかにゆっくりとした速度に見えます。べつな言い方をすると、銀河鉄道は、地球の夜の部分にいて、時差との差である1時間40分相当の、経度で25度を9時間かけて西に移動していったように見えるはずです。

また、緯度に着目するとどうなるでしょうか。銀河鉄道は、いったん天頂部のすこし南から真北の天頂部に向かい、わずかの間、天頂にとどまった後、北緯20度めざして南下していったように見えたはずです。緯度方向を移動する速度はそのままの速度に保たれます。ちなみに、ローマは北緯41度54分、ロンドンは北緯51度30分です。

銀河鉄道が宇宙空間座標でそのような運動をするとき、銀河鉄道の列車の乗客からは何がどのように見えるのでしょうか。

列車の乗客からは、地上の目標物が、つぎつぎに前方(西)からあられては後方(東)に飛ぶように通り過ぎてゆくように見えたはずです。しかし、天上の目標物は、9時間もの時間経過があるにもかかわらず、地球の自転速度よりわずかに速く西に飛んでいるため、天球は、ふつう地上から観察すると西から東へ動くのですが、それとは逆に、進行方向に対して後方(東)から前方(西)にゆっくりと25度ほど移動したように見えたはずです。

ややこしいですね。こうイメージしてください。“西から昇ったお日様が東へ沈む”というバカボンのパパ状態です。銀河鉄道の進行速度が地球の自転速度を上回っているために起こる現象です。

もっとわかりやすく表現すると、乗客から見た場合、銀河鉄道は、頭を天の川の対岸に向けたまま、こちらの岸辺を左手(南)に向かって移動しているように感じていたはずです。その効果として、あたかも北の星座が北の地平線に沈んでゆくように見え、南の星座が南の地平線を登ってくるように見えるはずです。

また、さらに視点を変えて、地表の観察者ではなく地球自体を観察者とすると、銀河鉄道の進行方向はあくまでも西のままですが、銀河鉄道は、賢治か書いたように、つねに天の川の左岸(西側)に沿うように南下していったかのように見えるはずです。

  カムパネルラは、円い板のようになった地図を、しきりにぐるぐるまはして見てゐました。
  まったくその中に、白くあらわされた天の川の左の岸に沿って一条の鉄道線路が、
  南へ南へとだどって行くのでした。


これらを考え合わせながら星座早見で銀河鉄道の飛跡をなぞってみると、星座早見では左右(東西)が逆になるので、銀河鉄道は白鳥の停車場以降は西(星座早見の右側)に25度線のあたりを移動してゆくことになります。星座早見には30度の補助線がありますので、そのすぐ左側を移動していったと考えればいいわけです。次のようになります

 (1) 南北線白鳥座にあわせると天頂部に一致する
 (2) 星座早見の23時の目盛りを読むと8月13日と15日の中間をさす
 (3) 天頂から西25度線見当を南下するとおおよそ天の川の左に沿う

AstroArts http://www.astroarts.co.jp の「星座ガイド」の「星座早見」で日付を8月14日、タイムゾーン0に設定し、次の表の時刻、経度、緯度を指定すると、それぞれ次の星座が真北と真南を結ぶ南北線上に現れます。タイムゾーン0を指定するのは、銀河鉄道がその経度にいるときに南北線上に見える星空、つまり銀河鉄道の左右の窓から見える星座を指定する、という意味になります。

 イタリア:   不明  10E, 41N 銀河ステーション
 イギリス:   23:00  0W, 52N 白鳥の停車場(天頂、真南)
 コロラド高原: 2:00, 108W, 34N 無名の停車場(南北線上は蠍座
 ハワイ:    3:00, 150W, 20N 南十字の停車場(真南の水平線上)

この表は、時刻と経度が星座を指し示すパラメータであることを示唆しています。

・・・つづく