北緯20度、西経150度

ジョバンニとカムパネルラは白鳥の停車場の停車時間を利用してプリオシン海岸に向かいます。プリオシン海岸ではクルミの化石が出土します。特徴的です。クルミの化石が出土する花巻の北上川河岸、賢治が名付けたイギリス海岸と密接な関連を想起させられます。

ならば、「銀河鉄道の夜」のプリオシン海岸の描写は、花巻にあるイギリス海岸を意識した上での描写なのでしょうか。先に「イギリス海岸」があって、その「イギリス海岸」がモデルとなって「銀河鉄道の夜」のプリオシン海岸となったのでしょうか。

出発地である天気輪の丘がある地をイタリアとして、銀河鉄道が西進したと考えると、プリオシン海岸はイギリス海岸の関連からヨーロッパのグレートブリテン島にある海岸を意味すると考えられます。

賢治が作品「イギリス海岸」でイギリス海岸と名づけた真意は「銀河鉄道の夜」のプリオシン海岸とは地上の目標物たるイギリスを意味するという「鍵」を用意しておくところにあったのではないでしょうか。誰のための鍵でしょうか。とうぜん読み手のための鍵です。ならば、読み手とは誰を指すのでしょうか。



その読み手とは、プリオシン海岸がイギリス海岸を意味していることを解き明かすことができる人物。作品「イギリス海岸」でのくるみの化石の発掘の共同作業者。その条件に合致するのは賢治の生徒たちです。厳密にいえば、発掘に立ち会ったその生徒たちではないのですが、「銀河鉄道の夜」を読んで聞かされたのも賢治の生徒たちでした。ただし、生徒たちが「イギリス海岸」という名称を知ったのは、賢治没後、作品「イギリス海岸」を読んでからのことだったようです。

賢治の生徒たちだけ解き明かせる謎。おそらく、賢治は生徒たちが「銀河鉄道の夜」の仕掛けを解き明かすだろうと考えていたということだと思います。この点を逆に考えると「銀河鉄道の夜」には、生徒が推理し理解できる程度の仕掛けがある、ということになります。

銀河鉄道の夜」の想定読者を賢治の生徒たちであるとし、生徒たちが理解できる程度の仕掛けがあると仮定します。

こういっては失礼ですが、生徒が理解できる程度の仕掛けですからそんなに難しい仕掛けではありません。プリオシン海岸を想起させる北上河畔へのイギリス海岸という命名のわざとらしさ。おそらく、鍵は地上の目標物をたどる西進ルートの出発地に隠されています。


ジョバンニの名前:イタリア、プリオシン海岸:イギリスとします。作品「イギリス海岸」には唐突にイタリア、フランスという国名が登場します。他のヒントはないのでしょうか。「銀河鉄道の夜」には、他に、いくつかのマジック・ナンバーがでてきます。11時、2時、3時、45分

とりあえず、今わかっている銀河鉄道はイタリアからアリゾナ州北部まで地球の約1/3を東から西に横断していました。白鳥の停車場到着が11時。20分停車後、西経108度近辺のアリゾナ州北部に2時かっきりに到着。銀河鉄道は2時間40分(飛行時間160分間)で経度にして108度前後移動したことになります。さらに南十字到着時刻の3時(飛行時間160分+60分)ですので、平均速度が同じであると仮定として、飛行時間に相当する西経を計算すると約150度なります。

南十字が水平線上に立って見える緯度は北緯20度前後です(「みなみじゅうじ座Wikipedia)。したがって、南十字の停車場の推定位置は{北緯20度、西経150度}となります。世界地図を見ると、ちょうどそのあたりにあるのはハワイ諸島です。なんでも、オアフ島の地平に南十字がすっくと立っているように見える時期があるそうです。

また、ハワイ諸島の東端、ハワイ島にはキラウエア火山(北緯19度25分西経155度17分 Wikipedia)があり、大正十一年からは小休止があったようですが、大正十年までは活発に噴火活動をしていたそうです。キラウエア火山が空の工兵大隊が相当するのではないかと思っています。

・・・つづく