祈りの姿

しかし、そもそも銀河鉄道が来迎列車ならば、単純に西に向かいさえすればいいものを、なぜ南下するのでしょうか。その上、最初に北上までしています。北上することに何か意味があるのだろうか、という疑問が生じます。じつは、この疑問こそが、作品「銀河鉄道の夜」の最深部へと導くアリスのウサギなのです。

あなた自身が地球で、頭頂部が北極、右手が銀河鉄道だとお考えください。では、右手で十字を切ってみてください。銀河鉄道が東から西へ駆け、北上したのち南下したはずです。それが「銀河鉄道の夜」という作品の姿なのです。

竹内・原田氏は、ブルカニロ博士の名前(BULL-CA-NI-RO)がおうし座(BULL)、カシオペア座(CA)、ふたご座(NI)、アンドロメダ座(RO)からとった賢治の造語であると指摘されています。また、それら四つの星座をつなぐと十字が現出することも指摘しておられます。さらに、ブルカニロ博士の名前の綴りが「銀河鉄道の夜」での十字の切り方であると指摘されています。綴りは、おうし座(東)からカシオペア座(西)へ、ふたご座(北)からアンドロメダ座(南)の順です。

ブルカニロ博士の名前の綴り、十字路、北十字、南十字、「銀河鉄道の夜」には、やたらと十字がでてきました。それらは、じつは「銀河鉄道の夜」という作品そのものの姿を暗示していたのです。そして、その姿は“祈りの姿”をしていました。

参考:竹内薫・原田章夫「宮沢賢治・時空の旅人 文学が描いた相対性理論日経サイエンス社 1996年

・・・つづく