竹内薫・原田章夫「宮沢賢治・時空の旅人」日経サイエンス社 96年3月

この本を読まなかったら、「二枚貝説」が生まれることはありませんでした。この本による主な発見は以下の三点です。

・ 双子の星を、“ペルセウス座散開星団のエイチ(h)とカイ(chi)”であると特定、ポウセは英語表記の“h & chi Perusei”からきており、チュンセはケンジのヘボン式ローマ字表記(Cenchi)の逆さ読みである。

・ ブルカニロは、牡牛座(BUL)カシオペア座(CAsiopeia)ふたご座(jemiNI)アンドロメダ座(andROmeda)の造語である。また、東-西-北-南が東方教団の十字の切り方であると指摘するのは、本書を小説仕立てにした兄弟本(※)。

・ 天気輪の柱は天のキリン座の首のことである。さらに、兄弟本(※)では、「ポラーノの広場」に出てくる番号はNGC番号(※)と呼ばれる星を特定する番号であるという説を引用しつつ、NGC番号と「蠕蟲舞手」と「双子の星」の関連を語る一節にも興味深いものがある

竹内薫編「宮沢賢治の星座ものがたり」河出書房新社 96年8月。これらの兄弟本が語る主要モチーフが「双子の星」ですので、ほとんど同時期におなじ内容の“兄弟”本を出版したということになんらかの意図があるように思えます。
NGC番号: New General Catalogue(天文カタログ)の星々につけられた番号。しばらく前まで、プロ用天文地図でないと見ることができませんでしたが、現在ではGoogle Earthで簡単に見ることができます。Google Earthを起動し、中央上の土星アイコンのツールチップのSkyビューを選択すると見ることができます。

二枚貝説」にとって、特に重要だったのが、巻末の「(4)のこされた問題」です。この問題の答えを見つけたときに、はじめて銀河鉄道は西に飛びました。

  “どうして、賢治はさそりの直前に<双子の星>を挿入したのか”

ちなみに、「ポラーノの広場」の“ポラーノ”という言葉ですが、“ポラーノ”とは賢治によるイタリア語風の北極星ポラリス)という意図の造語だと考えます。「二枚貝説」では、銀河鉄道の出発地(天気輪の丘=銀河ステーション)を、地上ではイタリア、天上では北極星としています。北極星は、イタリア語でもPolarisなのですが、「銀河鉄道の夜」の原作者たる賢治が、物語りに登場する固有名詞として、あえて暗示的にイタリアと北極星を重ねて創作することは自然なことに思えます。