銀河鉄道は南下したのか

銀河鉄道北十字から南十字へと走ります。白鳥座、鷲座、いて座、蠍座ケンタウルス座、南十字。夏の星座を北から南へと南下しています。さまざまな「銀河鉄道の夜」関連の書籍を読んでも、例外なく銀河鉄道は南下してゆくイメージで読まれています。なぜなら、カンパネルラが持っていた星図早見に銀河鉄道の路線が以下のように描かれていました。

  白くあらわされた天の川の左の岸に沿って一条の鉄道線路が、
  南へ南へとたどって行くのでした

しかし、銀河鉄道が南下したと考えると、さまざまな疑問にぶつかります。なぜ、遭難したタイタニックの乗客が乗り込んでくるのか。戻りえない崖、とうもろこし畑、新世界交響曲、インデアンとは何か。もっとも大きな疑問は、来迎列車であるにもかかわらず西行きでないのはなぜか、という疑問です。

しかし、あるポイントに着目し、ごくごく素直に読むと、実際には銀河鉄道はいったんは北西に向かいつつも、おおきく西行しつつ徐々に南下しながら南十字までたどり着いていた、と読み取れるのです。そのポイントとは、ジョバンニという名前に隠されています。ジョバンニという名はイタリア風の名前であるとされています。賢治もまた南欧の話だと知人に語っています。

  「場所は南欧あたりにしてナス。だから子どもの名などもをカンパネルラと
   いうふうにしあんした」(堀尾青史「年譜宮澤賢治伝」)

そこで、銀河鉄道の出発地をイタリアとしました。すると、銀河鉄道は、イタリア、イギリス、タイタニック号の沈没場所、合衆国東岸の北端であるコネチカット州、合衆国中部大穀倉地帯グレートプレーンズ、合衆国西部アリゾナ州と、どんどん西進してゆきました。

まず、イギリスに午後11時かっきりに着きます。そのイギリスを午後11時20分に出発した銀河鉄道は、さらに北大西洋を西に向かいます。タイタニック号の沈没位置を通過するとき、家庭教師の青年が子供らを連れて苹果の匂いとともに銀河鉄道に乗車してきます。青年たちが乗り込んでまもなく銀河鉄道コネチカット州を通過します。コネチカット州はニューヨークの北、北米大陸東岸の位置にあります。

銀河鉄道は、さらに西進し、とうもろこし畑を通過します。広大なとうもろこし畑。地上の目標物としては、グレートプレーンズ、北米中部大穀倉地帯が相当します。とうもろこし畑が印象的な映画「ドリーム・カム・トゥルー」の舞台もグレートプレーンズの一部であるアイオワ州です。

そして、銀河鉄道はかっきり2時に名もない駅に停車しまもなく発車。三つの地理上の目標物、“コロラドの高原”、“インディアン”、“戻りえぬ崖”に向かいます。

コロラドの高原は北米西部アリゾナ州にあります。地図で見るとコロラドの高原の下にナヴァホ国定記念物の文字、そのすぐ西がグランド・キャニオンです。銀河鉄道の三つの目標物はおなじアリゾナ州の北部から北西部にかけて地理上の目標物として存在していました。インデアンはいて座も兼ねているようですので地上の目標物としてしまってよいかかどうかは議論の余地があります。また、ナヴァホ国定記念物にはインディアンの足跡の化石があるそうです。

銀河鉄道は、天上の目標物(星座)を基準にすると北から南へと南下しますが、地上の目標物を基準にすると東から西へと西進していたのです。

べつな言い方をすると、、銀河鉄道は地上の目標物を基準にするとヨーロッパ大陸を出発し、大西洋を横断、さらに北米大陸を東部から西部へと横断して、大きく地球の1/3ほどをひたすら西へ西へと横断していたのです。

・・・つづく