琴の星

銀河鉄道の夜」で琴の星が蕈(きのこ)のように足をのばす場面が都合2箇所あります。第一次稿と第二次稿は欠落部分に相当しますが、牛乳を入手できなかったジョバンニが天気輪の丘から琴の星を望む場面、と、第四次稿では消えますが第一次、二次、三次と、地上に帰還したジョバンニがやはり琴の星を望む場面です。


  あの青い琴の星さへ蕈のように脚が長くなって、三つにも四つにもわかれ、
  ちらちら忙しく瞬いたのでした(第三次稿)

  そしてジョバンニは青い琴の星が、三つも四つにもなって、ちらちら瞬き、
  脚が何べんも出たり引っ込んだりして、とうとう蕈のように長く延びるのを
  見ました。(第四次稿)

  琴の星がずうっと西のほうへ移ってそしてまた蕈のように足をのばしてゐ
  ました。(第一、第二、第三次稿)

琴の星が蕈のような脚をのばすという表現は、ジョバンニが琴の星をみて涙ぐんだと理解するのが穏当と思われるのですが、では、なぜ琴の星なのでしょうか。

鳥捕りはジョバンニたちに鳥の押し葉(地上に転生するための命)をくれます。鳥捕りとジョバンニ父は螺蛤というキーワードで直接結びつけられました。鳥捕りは、また、鷲座のメタファでもあるという解釈がなされています。

いっぱうで、鳥捕りに正対するのが燈台看守です。かほるたちに苹果(天上に生まれるための命)をくれる役割をになっています。ジョバンニの母は病床にいるためか、職業ははっきりしません。鳥捕りが鷲座のメタファならば、鷲座のアルタイルは牽牛星です。牽牛が七夕の天の川に掛かるカササギの橋を渡って逢いにくる相手というのは織姫と相場がきまっています。織姫星というのが琴座のヴェガです。

ジョバンニの家は、小さな家で三つ並んだ入り口がある家とあらわされています。そのいちばん左側の入り口がジョバンニの家のようです。星図早見で琴座を見ると、星が三つ並んでいて、一番右がヴェガになります。星図早見というのは空にかざしてつかう地図ですので、現代の都市の空では光害のため見えませんが、琴座のヴェガは、実際の夜空では、ちょうど三つ星がならんだいちばん左側になります。

琴座のヴェガがジョバンニの家だとすると、家から黒い丘までのジョバンニの足取りが判明します。星図早見の上でなぞっていくと、琴の星の家を出て左(東)の天の川に向かい、天の川を渡らずに、川岸に沿って北上し、天の川の岸をはなれて北極星(留め金)のある黒い丘にたどり着いたことになります。

織姫星がジョバンニの母。牽牛星のジョバンニの父は遠く離れて年に一回くらいしか帰ってこない。帰ってくるのは七夕の夜。七夕の夜に飛んだ銀河鉄道から降りたジョバンニが家に帰ると、ジョバンニの父が帰ってきているのでしょうね。お土産はラッコの毛皮の上着、他です。

・・・つづく