イーハトーブ幻想曲~宮沢賢治・音楽への旅~

NHKアーカイブス 4月10日放送

イーハトーブ幻想曲」は1992年の作品。わたしの中に、賢治へのひとかけらの関心もなかった頃のドキュメンタリー作品です。モチーフは音楽です。

本日、震災を受けてこの作品を再放送することのテーマは“風土”なのだろうと思います。イーハトーブは賢治の作品中にとっての風土。震災前に現実だった風土は、これから復興されるであろう新らたな風土にとって、賢治作品にとってのイーハトーブのように、“震災前”という文脈で語りつがれる風土になるのだろうと思います。


そして、賢治がりんごを北上川に投げ込んだエピソードを語る、照井謹二郎さんの姿に感激です。

 「農学校の二年生のときね、十月のある日曜日の日にね・・・」

二枚貝説にとっては「やまなし」「二十六夜」「銀河鉄道の夜」の三連作の誕生に立ち会ったとても重要な人物です。さらには、生涯にわたって賢治の事跡を残し語り継ぐことに大変なご尽力をされた方のようです。

また、下の四行は、このドキュメンタリー中で引用された部分で、音楽は<さびしさ>が生むのだというように、賢治の創作イメージを演出しているように感じました。

 みんなが町で暮らしたり
 一日あそんでゐるときに
 おまえはひとりであの石原の草を刈る
 そのさびしさでおまへは音をつくるのだ

それもありだと思います。ありだと思いますが、それだけでもないようようにも思います。ドキュメンタリーで引用された四行の前に、引用されなかった下の三行があります。“恋”も音になるという部分です。“恋しい人”は、賢治にとって音になるばかりではなく、詩にも、ひいては風土の一部になりえたのではないかと思っています。

 ひとりのやさしい娘をおもうやうになるそのとき
 お前に無数の影と光の像があらはれる
 お前はそれを音にするのだ
       (「告別」『宮沢賢治全集1』ちくま文庫