照井謹二郎 童話「二十六夜」が創られるまでに

所収:照井謹二郎「宮澤賢治先生にちなんで」花巻賢治子供の会 1998年5月

クラムボン二枚貝としたとき、「やまなし」が「二十六夜」をデフォルメしたような話であるということに気が付きましたが、その頃、二つの作品のどちらが先に成立したのかが判然としませんでした。「やまなし」の新聞紙上での発表は大正12年4月8日です。「二十六夜」の成立は通説では大正12年頃とされています。

 生前未発表。現存草稿の執筆は大12か。表紙に「どうも/くすぐったし」とある。
 (佐藤泰正・編「宮沢賢治必携」別冊国文学No6 1980年5月)

そもそもが、ふたつの作品のどちらが先かなど、それほど重要なことだとは思っていませんでした。しかし、この照井謹二郎氏のエピソードが、突破口になりました。照井氏のエピソードは大正11年8月のことでした。そこで、「二十六夜」が「やまなし」に先立って成立していたことが判明しました。そのうえで「二十六夜」のラストに銀河鉄道らしき汽笛が流れています。しかし、「銀河鉄道の夜」の第一次稿の成立時期は、さまざまな状況証拠により大正12年9月以前にはさかのぼれるものではありません。あるべきはずなのに、無い。「銀河鉄道の夜」がとしの生前に成立していたという発想が浮かび上がりました。

 照井さんは生誕百年の五月、『宮沢賢治先生にちなんで』と題する冊子四百部を自費で出版
 し、ゆかりの人たちに配った。 百ページあまりのこの冊子にはこれまで公にされなかった秘話も
 含まれている。(増子義久「賢治の時代」岩波書店p81)

この冊子にめぐりあったのは、まったくの偶然です。図書館の宮沢賢治の棚にたまたま置いてありました。四百部の自費出版の冊子。それが、公立図書館に開架で収蔵されているなど、通常では考えられません。寄贈者と図書館書士に、よほどもののわかった方々がたまたまいた。そうとしか考えられません。

この冊子は、川崎市立麻生図書館の宮沢賢治の棚に置いてあります。川崎市民なら借りることができます。インターネットの蔵書検索・予約ではヒットしないので神奈川県民が市外予約で借りられるかは微妙です。市外の方で読んでみようと思われる方は、在架を電話確認してから訪館するほうが無難だと思います。
川崎市立麻生図書館http://www.library.city.kawasaki.jp/riyou_libmap/libinfo_11.html