入沢康夫 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の原稿のすべて 宮沢賢治記念館 1997年3月

この本は「銀河鉄道の夜」の全生原稿をカラー写真で製版したものです。原稿裏になんらかの記載がある原稿の写真も掲載されています。「銀河鉄道の夜」により深く踏み込みたいと考えている賢治フリークには必携の一冊です。値段もべらぼうではありません。わたしが購入したときには2,200円でした。ただし、宮沢賢治記念館でしか販売していないようで、そこが難点です。

一年ほど前、二枚貝説もだいぶ煮詰まってきたある日、新校本 第十巻 校異編 p74の、「銀河鉄道の夜」の初期形のメモの解説の次のような記述が目に留まってしまいました。

 第六七葉 詩「オホーツク挽歌」詩集原稿書きかけ断片

「オホーツク挽歌」は、二枚貝説にとっては、かなり有意な暗喩が凝集した作品です。その行間には、白鳥の駅、Cor Christ、北十字と南十字の五のメタファ、三角標のイメージ、かささぎの橋、十一を十二へという韜晦、果ては、「銀河鉄道の夜」とし原案説までが含まれます。

そのような重要な作品が、「銀河鉄道の夜」の初期形のメモの表面にあるとの記載です。原稿書きかけ断片とは、どのような内容なのでしょうか。気になってしかたがありませんでした。が、生原稿にあたるなど趣味の賢治フリークの一人としては、夢のまた夢です。実際、あきらめていました。

ところが、たまたま、新花巻の宮沢賢治記念館に行く機会があり、そこでこの本を見つけました。その原稿書きかけ断片とは、発表形とは異なりますが「オホーツク挽歌」の冒頭の「チモシイ~朝顔が」までの6行でした。おそらくは二枚貝説には無関係な部分と、ほっとしたのを覚えています。

ちなみに、そのとき見た記念館のドームと童話館の庭の南十字のどちらにもε星はありませんでした。