野ブタ。をプロデュース -月-

「俺はさびしい人間です」

さびしい人間とは?「真夜中のギター」の歌詞にある。さびしがりやとは、愛をなくした人。「さびしくなるね」とは、プロデュースをやめると言われ、信子がいった言葉。修二「もう三人で何かすることってないんだ」。仲間がばらばらになる。それが、さびしい。

「カラオケってこんなにつまらなかったけ」とつぶやく修二が見上げる半月。半分欠けた月。親しい仲間を欠いた、愛する人を欠いた。熱中していた何かが欠けた。彰は歌う「月もなくさびしい」。月はさびしいメタファ。


「にいちゃんはいい奴だよ、約束は絶対守るし」

約束を守った相手と、約束を守るために放置してしまった相手がいる。修二が守っているのは約束ではなく体面ではないのか。

 約束を守った相手:吉田、美咲、奈美、横山、セバスチャン
 放置した相手:まり子、信子、彰

約束したのは、約束そのものをする必要がない相手ばかり。断ることもできたのに断らなかった。修二にとって、体面を気にする相手と体面を気にしなくてもいい相手の2種類の相手がいる。体面を気にしなくてもいい相手にまり子が入るのが興味深い。体面を気にする相手と気にしなくてもいい相手の線引きはどこ?


11月1日、修二の誕生日。まり子のケーキを食べなきゃと差し出す信子に「きもいっしょ」と、しかし遠慮がちに吐き捨てる。傷つき立ち去る信子。修二は信子に花を降らせるつもりだった。しかし、信子に花を降らせる行為は、満座の観衆の中でまり子に水をかける行為に等しい。ここで脚本が逃げてしまう。(ついでにいうとドラマ世界では11月3日は祝日ではないらしい)


まりこ「今日は楽しかったです」

「ああ」と答える修二。まり子が言った意味に気がつかなかったはずがない。修二の帰宅時間が夜だったというのが引っかかる。信子たちは、水族館にいき、救急車で病院に行き、キャッチボールをし、それだけの時間を費やして帰宅が夜になった。

修二はまり子と一緒の時間を過ごしたのだろうか。それとも、一人たそがれていたのだろうか。「うそをつくのは苦しいよ」と駄々をこねてみせる。嘘とは、まり子についている嘘なのか、自分についている嘘なのか。

「彼女じゃないし」、「でも彼女とちゃんと付き合う気はない」、「まり子のこと好きだと思ったことは、・・・ないんだ」

これらは修二が自分の欲求を押さえ込みごまかすための嘘。嘘の殻が言わせた嘘。最後の嘘はまり子に言ってしまった嘘。

短い高校生活を、そんなことだけで使い切ってしまうのは、あまりのバカすぎる。周りに恋人がいる振りをしたかっただけと。約束しても約束をドタキャンしつづける。けれど、学園祭の頃には、すでに、まり子は近しい相手に入っている。114の時も、信子よりもまり子の方が修二にとって近い。

まり子は赤の箸をつかい、修二は青をつかう。赤は愛、青は自由。トリコロールのメタファ。まり子が欲しいものは愛。修二の欲しいものは自由。まり子からの自由か。そうではない。自分が作り上げた嘘の殻から自由になりたいのだと思う。


「ノブタに抱きしめられて解った。俺はさびしい人間です」

修二は愛をなくしたのだと気づく。抱きしめられたという行為は、抱きしめたという行為の裏返し。修二が抱きしめていたのだ。まり子の愛を。ほんとうはなくしたくなかった。でもなくしてしまった。まり子に嘘をついて。まり子を傷つけて・・・最悪だ。
修二「お前、こんなことでさ、野ブタ。がお前のこと嫌いになると思うの」
彰 「だって俺、最悪だぜ。」
信子「誰も・・・嫌いにならない」
修二が信子で、彰が修二で、信子がまり子の思いを代弁している構図。せりふを重ねるのは脚本の常套手段。けれど、修二が男であること信子が女であることが新たなドラマを生む。